Some Days You Get the Bear

IT系エンジニアの、日々の気づきや考えたこと。

そもそもうまくいくとは限らない

そもそもソフト開発はうまくいくとは限らない。
うまくいった時の姿だけを描いて線(スケジュール)を引き、
そして遅れてしまえば「がんばる」だけ。

バイスがマニュアルの通りに動かなかったり、
散々あれこれやってみて、結局(自スコープ外の)ドライバに不具合が見つかったり、
体調くずして数日休んだり、

それらは全て、最初の線とは違ってしまっているのだけれど、

どうして、1日でも早くリリースすることだけが、自分たち(の会社)の責任と考えるのだろう。

うまくいかない現状を踏まえて、どうやってこのプロジェクトをうまく進めていくのか、
それをお客さんと相談しながらやっていくのが、我々の仕事ではないのか。

「がんばってやっていること」がお客さんの評価なら
そんなお客さんとは付き合わなければいい、と私は思う。
作業時間で人や仕事を評価したくない、といつも思っている。

[http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/14/463805/062300092/itpro.nikkeibp.co.jp

実はIT業界やIT業界の人、特にマネジャー層に「仕事は完ぺきでなければならない」と主張する人がゴマンといる。立派な心がけのようだが、さにあらず。日本のITをダメにした張本人たちである。
  
 私はこうした完ぺき主義者に“疫病神”とのレッテルを貼らしていただく。なぜそんな酷い言い方をするのかは追々述べるが、その前にこの疫病神の数が驚くほど多いことを指摘しておく。例えば「お客様の要求は完ぺきに実現しなければならない」と言って、膨大な要件をシステムに実装しようとする疫病神もいれば、「納期は厳守だ」と力んで、多くの技術者に不眠不休のデスマーチを強いる疫病神もゴロゴロいる。

客からすれば結構な話かもしれないが、おもてなし精神を発揮すればするほど、要件が膨らむだけでなく矛盾も内包してしまう。つまり、要件定義は完ぺきではなくなるわけだが、なぜかそのことにはお構いなくプロジェクトが動き出す。当然、どこかでプロジェクトはおかしくなるわけで、開発部隊はデスマーチ、まさに死の行進を強いられることになる。
  
 破綻が運命づけられたプロジェクトでなくても、完ぺき主義者のプロジェクトマネジャーに率いられた開発チームはそれなりに悲惨だ。納期に間に合いそうになくなっても「この機能はあとで実装すればいいじゃん」とか「致命的でないバグは放置でいいじゃん」には絶対にならない。必ず「全機能を実装して、バグも完ぺきにつぶして、納期厳守」。で、開発部隊はやはりデスマーチとなる。

 完ぺき主義者による人的被害はさらに深刻だ。完ぺき主義者は絶対に自分に対しても、部下に対しても、下請けの技術者に対してもマイナス評価しかできない。理由は簡単。これまで述べてきたようにシステムに完ぺきは無いからだ。そんな完ぺき主義者のプロジェクトマネジャーに率いられた開発チームにデスマーチに陥ると、本人も含め何人もが心を病み、身体を壊して倒れる事態に陥ることになる。
  
 そんなわけなので、完ぺき主義者はシステムの価値を引き下げ、技術者を病の淵に追い込む。だから疫病神であるわけだ。ただ、なぜIT部門やITベンダーにこうした完ぺき主義者が多数存在するのか。すでにお気づきの読者もいると思うが、私が描き出してきた完ぺき主義者とは、「要求されたことを完ぺきに実現しようとする」という意味での完ぺき主義者たちだ。
  
 ネタを明かせば結局のところ、日本のIT業界の受け身の御用聞き商売や人月商売が、こうした完ぺき主義者を量産する。もちろんユーザー企業のIT部門も経営や事業部門に対して受け身の御用聞きだから、事情はITベンダーと同じだ。自覚のある人は是非、「たかが3500個のバグですよ。とりあえず放置でいいんじゃないの」と言えるようになろう。それができたら世界は変わる。

http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/14/463805/061600091/itpro.nikkeibp.co.jp

 「仕事は遊びみたいなもの」と挑発的に言わず、「仕事は楽しくなければならない」とマイルドに言っても、やはり辛いITの仕事を担うマゾヒストの皆さんには受け入れてもらえそうにない。それどころか今も、不毛な長時間労働に異議を唱えた若手に対して、「仕事をなめるんじゃない」と怒鳴り散らす輩が大勢いる。

こうしたイノベーションを興すためには、前提として仕事が楽しくなければならない。技術者がデスマの不幸自慢をしているような状態では、絶対にクリエーティブな仕事はできないし、社会を変えるような優れたアイデアなど生まれようがないのである。だから「仕事は楽しくなければならない」は十分条件ではなく必要条件であり、特にIT関連においては絶対条件なのだ。

仕事のやり方は多重下請け構造の人月商売。要件がブレてプロジェクトが炎上、デスマも当たり前では、仕事が楽しくないと思うのも分からないわけではない。
  
 日本も含め世界のITのすう勢は、もちろん「仕事は楽しくなければならない」のほうのITだ。今、世界ではデジタルトランスフォーメーション(デジタルによる変革)、ビジネスのデジタル化が進んでおり、日本企業は否応なくデジタルビジネスにチャレンジしなくてはならない。当然、クリエーティビティ、優れたアイデアが必要だから、ITの仕事が楽しくなければ何も始まらない。

ただ、この点はそんなに心配することはないのかもしれない。日本でもIT業界の主流派以外、つまりクラウドなどを活用して新たなビジネスを創るITベンチャーや、ユーザー企業でもIT部門ではなく事業サイドのデジタルビジネスの部隊では「仕事は楽しくなければならない」に同意する技術者がほとんどだからだ。要は、IT業界の主流派のみが大問題なのである。
  
 IT業界の主流派、つまりSIerを頂点とする多重下請け構造のIT業界は、まるで日本のITの世界の中心に存在する巨大なブラックホールのようだ。その周りの「仕事は楽しくなければならない」ITとは無縁の厳しく辛いだけのIT、企業や社会のインフラを支える重要な仕事なのだから私生活を犠牲にしてでも頑張れという、技術者にとってまさにブラックな世界である。
  
 コンピュータサイエンスなどを学んだ優秀な若者が、下手にこのブラックホールに近づいて吸い込まれたりしたら大変だ。仕事を楽しいと思う機会も無く、あっという間に学生時代に学んだ知識や才能は風化し、いつの間にか「職場に寝袋を持ち込んで何日も泊り込み…」など不幸自慢をする人となる。これは本人の不幸だけでなく、日本にとっても国家的損失になる。

実はよく考えてみると、日本のIT業界においては「客やIT業界の在り方を変えること」、あるいは「御用聞きの人月商売とは違う、新たなビジネスを生み出すこと」が最も付加価値の高い重要な仕事であり、最も楽しい仕事なのだ。だから、マゾヒストの皆さんが何と言おうと、やはり皆さんの仕事も楽しくなければならないのである。
  
 だからIT業界の人たちは、仕事が楽しくなるように、それぞれの立場で努力してみる必要がある。で、もし仕事を楽しくするのが絶対に無理なら、ここに留まる必要はない。幸い本物のブラックホールと異なり離脱は簡単だ。人は多くの時間を働いて過ごす。「仕事は楽しくなければならない」はそれぞれの人生においても必要条件だと私は思うぞ。